AD変換、信号伝送
 
1. AD変換の原理
 
  この装置のAD変換回略は、逐次(ちくじ)変換形といわれる方式です。回路の原理を図1.3.6 に示します。
 
 
 
 DA変換器に MSB から1をあたえ、その DA変換器出力と比較して入力電圧が小さければ“1”大きければ“0”を出力します。
 DA変換器はディジタル信号をアナログ信号に変換するものです。動作の基本は、ロジックレベルのON、OFFによって変換抵抗に電流を流し、電流を発生させます。ビット数に相当するロジック入力のON、OFFによって発生電圧を制御させます。この動作を 図1.3.7で示します。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
図1.3.7AD変換タイミングチャート
 
 
 
 
2. AD変換の種類
 
  本装置のAD変換回路は逐次比較型変換回路です。AD変換には次のようないくつかの方式があり、その性能に応じていろいろな分野で使用されています(表1.3.6参照)。
 
 
3.  AD変換に使用する数値の表現方法             
 
 
 アナログ信号のディジタル化は、サンプリングと符号化とで成立ちます。サンプリングは入力アナロ信号の瞬時の値を取り出し、符号化はその値を 2進法に変換して表現することを意味します。

 参      考
  ・2進法について
   通常、私達は10進法を使用しています。
    0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10・‥‥・
  10 で桁上がりする数えかたです。         
  2進法は 2 で桁上がりする数えかたです。
    0、1、10、11、100、101、110、111・・‥‥‥・
  1桁で“0”と“1”の 2通り、2桁で 4通り、3桁で 8通り、同様に 8桁で 256通りの表現ができます。
  “0”と“1’’の 2つの値ですべての数値を表現するのが 2進法の最大の特長です。
   ディジタル処理系では1つの桁を“ビット”と呼んでいます。

  ・16進法について
   ディジタル・データのパソコン等による処理は、すべて 2進法で行なっています。
   しかし、私達は桁が多いと読みにくくなります。そこで2進法をわかりやすく表現しようとして考えだしたのが16進法です。
  16進法は4桁(つまり 4ヒやット)を基準にした考えかたです。4ビット の場合、16通りの表現ができます(表1.3.6 の16進法参照)。
   この表現によって表示が非常に楽になります。
   例えば、
  “01101011”は“0110”’と“1011”に分離し、“6B”と書けます。
   “11111111”は“FF”です。
  16進数では、一般的に6BHのように実際のデータの後にH(=HEXA16進)をつけて表わします。

  ・ビットの重み
   私達は、10進法でないと理解しにくいので、理解しやすくするために各ビットに対して重み付けを行なっています。

  16進法の1、2、4、8 は2進法では0001、0010、0100、1000になります(表1.2.1 参照)。
   2進法のそれぞれのビットの“1”に対して、10進数では・“1”、‘‘2’’、“4”、“8 ”と定義付けをしています。このことをビットの重みといいます。“1”があるビットの重みを加算すると10進表示となります(表1.3.6の10進法参照)。

 

  参     考(続き)

  1、2、4、8 はそれぞれ20、21、22、23と表現できるので、nビット構成の場合も各ビットに対し 20、21、22、23、24、‥‥‥‥‥ 2n−1の重み付けをすると、2進表示から10進表示に換算ができます。
  [例]
  2進法の ”1100”を10進法換算します。
   2進法 1  1  0  0
   10進法 23 22 21 20

    23×1 + 22×1+21×0 +20×0 =12
  10進法換算すると12 になります。






















 
 
 
 
 
4. サンプリングデータの量子化と符号化について             
 
  アナログ信号は時間の経過とともに連続的に変化する電圧です。この信号をデータとして扱う場合必ずしも波形のすべてを送る必要はありません。しかし、その瞬時値1箇所だけでは波形の再現はできません。したがって、一定の周期で瞬時値をサンプリングする必要があります。
  原信号に含まれる最高周波数の2倍以上の速度でサンプリングすれば、原信号を再生することができます。これをサンプリング定理といいます。
 
 
 
 
 
 
 
図1.3.8 サンプリング
 
・量子化とは瞬時変化するアナログ信号の変化値をひとつの値として規定することです。
・符号化とは量子化された信号振幅をビットに応じた値に変換することです。
 
 
 
 
 
 
 
 
図1.3.9 量子化
 
 AD変換されたデータで、アナログ値を表現するのには限界があります。これを分解能といいます。
これは、AD変換される 2進数のビット数で決まります。図1.3.10 でこの意味を説明ます。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
図1.3.10 分解能について
 
 図1.3.10は、ディジタル値2ビット で+10.24Vフルスケールの場合を表したものです。
この例では2 ビット ですから、表現は22 通りですから1ビット の分解能は、
      10.24/4=2.56V
                
 3ビット の場合には、23 通りで10.24V フルスケールの場合1.28V となることがわかります。
このように、ビットの数によりアナログ値の表現力が変わります。したがって、ビット数を大きく取るとアナログ瞬時値をより正確に表すことが可能になります。
 本装置は8ビットAD変換回路になっており、この場合には256通りの表現力があります。
最近では、10ビット、12 ビット または それ以上のビットをもつAD変換回路が使われてきています。
アナログ値の表現力を高く、それだけ ダイナミックレンジが大きくできるからです。
本装置は、AD変換ビットが 8ビット ですから、256通りの表現があります。、
AD変換可能な入力電圧範囲は、−10.24V〜+10.16Vです。これは256で割り切れる値から設定してあります。
 一般の測定器も、このような考え方で1、2、4、8 を基本とした数値を入力範囲にしている場合があります。
±10.24V とすれば、スパン 20.48Vで、
    20.48V/256=80mV
           
 この値がアナログ電圧の表現できる能力で、分解能といいます。上記の例では、80mV未満の変化(桁)は表現できませんから、符号化の結果には、偶然にきまる要素として1ビット あり、この最小ビットがデータ値の確定される誤差となります。
 この最小ビットを LSB といい、逆に先頭(最大)ビットをMSB といいます。このとき先頭ビット(MSB)は電圧信号の極性符号の役割りを果たしていると考えられ上記の例では、「符号+7ビット」と表示されることがあります。
 AD分解能が8ビットのときは256通りの表現ができますが、この先頭ビット(MSB)は、極性符
号として(符号+7 ビット)と表記することがあります。これは、下記のようなビット表示となるためにいわれる表現です。
 
     11111111のとき +10.16V
     10000000 のとき  0.00V
     00000000のとき −10.24V
 
 本装置のように、正負両極性の動作スパンをもつものをバイポーラといいます。
換算式は、下記のとおりです。                 
 (P−128)× 80mV(P:カウント値、1LSB:80mV)
また、これに対し
    11111111を正(または負)だけの信号を上限とし、
    00000000 を 0V と定義すると負(正)極性は、表現できません。
これをユニポーラといいます。
このときの換算式は
  P × 80mV(正のとき)
となります。
 
 
 
 
5.  サンプリング周期
 
 波形再現のとき、波形すべてを送信する必要のないことは前述しました。
再現するときは、原信号波形の持つ周波数成分の 2倍以上の周波数で、周期的にその信号の振幅瞬時値を検出する必要があります。これを式(1−2−3)で示します。     1
fs ≧ 2fd  ・・・・・・・・・・・・・・・・式(1−2−3)
  fs:サンプリング周波数
  fd:測定信号の周波数成分
 
 fs/2となる周波数をナイキスト(nyquist)周波数と呼び、検出可能な周波数です。
式(1−2−3)を無視して、測定信号の周波数より遅い周期でサンプリングすると、エイリアジング効果という現象が現れ、実際と異なる周波数を表示します。            
 測定信号とエイリアジングの関係を図1.3.9に示します。エイリアジング現象は誤った測定をするので、これを防止するために指定したサンプリング周波数の1/2以上の信号を強制的にフィルタでカットする機能を持たせた高機能な測定器もあります。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
図1.3.11 エイリアジング
 
エイリアジング(aliasing)
 
 
 測定信号の周波数より遅い周期でサンプリングすると、エイリアジング効果という現象が現れ、実際と異なる周波数を表示します。
  すなわち、高速回転しているものが、回転方向とは逆方向にゆっくり回っているように見えることがありますが、これとまったく同じ現象です。
 回転に合わせて、点滅するストロボで回転が停止しているように見ることができるのはこの応用です。